月さえも眠る夜〜闇をいだく天使〜

1.エピローグそしてプロローグ



『沢山』のことを、よく『星の数ほど』と申しますでしょう?
では、この宇宙には、いったいどれほどの星があるとお思いになります?
答、それはもう、『星の数ほど』。
あら、私、ふざけているのではありませんわ。
だから、お聞きになって。
私の話を。
ずっと、私の声が聞こえないふりをしていらしたでしょう。
そう、ずっと、ずっと。
あの、月さえも眠る夜に同じ夢を見たあとから。
でも私、自分が独りだなんて思ったことありません。
私の目の前にはいつだって、あの時あなたがみせてくれた彩やかな宇宙が広がっていたのですから。
そして、私を支えていてくれる、どこまでも透明な闇。
それをずっと感じていました。
ふふっ。昔、あなたのことを『意地悪』と言いましたわね。
今でもけっこう、そう思っていますけど、それだけじゃないこと、きちんと知ってましたのよ。私。

話をもどしますわね。
そう、星の数ほどあるその中で、さらに多くの生命達が生まれ、消えていく。
宇宙の起源からこれまでいったい、どれだけの魂がこの宇宙を通り過ぎていったのでしょう。
星の数では足りませんわね。きっと。
そんな、気の遠くなるような数と時間の中で、ひとりの人と出逢うというのは、どれほどの確率なのでしょうかしら。
しかも生まれた時代も、場所も全く違うふたりが、ですわ。
この世に生まれいでることでさえとてつもない確率ですのにね。

今、思うことができますの。
私が生まれてきたのはあなたに逢うため。
ただ、それだけ。

そうですわね。女王になったのは、おまけみたいなものかしら?
あ、勘違い、しないでくださいませね。
少しだって、後悔はしていません。

あなたが、傷つくことを黙ってみているしかできなかったこと以外は。

出逢わなければ知らずにいた、痛みも確かにあったかもしれない。
私も、あなたも。
ですけれど、『出逢わなければよかった』なんて、いちども思いませんでしたわ。

あなたも長い時の中で少しずつ、私と同じ事を想うようになったであろうこと、感じていました。
そしてその時はじめて、私たち、この宇宙に共にあることができたんですわ。
私たち、いつも一緒でした。
このどこまでも続く透明な宇宙の中で。
そうでしょう?

もう一度、言いますわね。
後悔はしていません。
幸せでしたわ。
神様に与えられたぶんだけの幸せ、きちんとうけとりました。
これから、なにがあってもその想いはかわらない。
それだけは、覚えていて。
おねがい。

私があなたのおかげで幸せであったということ、けして忘れないで。

私の声、聞こえましたでしょう?
いつまでもうだうだしていらしたら、私、ぜ〜ったいに、許しません!

闇だけをみつめていた私に、彩やかな世界をみせてくれたあなた。
そのあなたがなぜ、闇に馨る白い華の美しさに気付きませんの?
闇に生きる生命達の息吹に気付きませんの?
ほら!ご覧になって。いつも眠そうなその瞳をひらいて!ね?この世界は、こんなにも美しいでしょう?
だって、私、必死で導きましたもの。

あなたを幸せにできるのが、私でなくて残念ですけれど。
そのかわりに、この宇宙、残していきます。
ああ、今日も、新月。
星月夜ですのね。
あの日と同じ
―― 月さえも眠る夜ですわ ――


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